賃金制度を考える～賃金とモチベーション② - 社会保険労務士法人ヒューマンキャピタル（文京区本郷）就業規則、賃金制度

賃金と働く人のモチベーションの関係については、研究や理論により様々な見解があります。以下に、賃金とモチベーションの関係に関する主な理論や見解を紹介します。
今回はマズローの欲求段階についてです。

マズローの欲求段階説は、アブラハム・マズローによって提唱された人間の動機づけに関する理論で、人間の欲求を5つの段階に分類し、低次の欲求が満たされると次の高次の欲求に向かうとされる理論です。これらの欲求はピラミッド状に表現されることが多く、以下の5つの段階に分かれています。

マズローの欲求段階説の5つの段階
賃金と欲求段階説の関係
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マズローの欲求段階説の5つの段階

生理的欲求（Physiological Needs）

・最も基本的な欲求であり、生存に必要なものに関連しています。食事、水、睡眠、空気、住居など、人間が生きていくために必要なものを求める欲求です。
・この欲求が満たされなければ、他の欲求に目を向けることができないため、最も重要で根本的なものとされています。

安全の欲求（Safety Needs）

・生理的欲求が満たされた後、人は安全と安定を求めるようになります。ここでは、身体的な安全、健康、仕事の安定性、経済的な保障など、危険やリスクを避けて安定した生活を求める欲求が含まれます。
・人々は安心して暮らせる環境や、将来の不安を軽減できる状況を求めます。

社会的欲求（Love and Belonging Needs）

・安全の欲求が満たされた後、人は他者とのつながりや関係性を求めるようになります。友情、愛情、家族、仲間意識など、社会的なつながりや帰属意識を持ちたいという欲求です。
・孤独や孤立感を避け、他者との感情的な結びつきを求めるようになります。

尊重の欲求（Esteem Needs）

・社会的欲求が満たされた後、自分が尊敬され、評価されたいという欲求が現れます。これは自己尊重（自尊心）と他者からの承認という2つの要素から成り立っています。
・成就感、自己効力感、他者からの尊敬や評価を求め、自己価値を高めたいという動機が含まれます。

自己実現の欲求（Self-actualization Needs）

・最も高次の欲求であり、自分の持つ潜在能力や才能を最大限に発揮し、自分らしい人生を追求する欲求です。創造性の発揮、自己成長、新たな挑戦への取り組みなど、自分の可能性を追い求めることが重視されます。
・これが満たされることで、人は自分がなりたい姿に近づき、真の意味での満足感を得ます。

賃金と欲求段階説の関係

賃金は、マズローの欲求段階説において、主に下位の段階の欲求を満たすための重要な要素となります。各段階において賃金がどのように影響を与えるかを詳しく見ていきます。

生理的欲求と賃金

・賃金は、生理的欲求を満たすための最も基本的な手段です。食料や住居、衣服などの生活必需品を購入するために必要な資金を提供するため、最低限の賃金が確保されることでこの欲求が満たされます。

安全の欲求と賃金

・安定した収入や賃金は、安全の欲求を満たすために重要です。経済的な安心感や、将来に対する不安を減らすための手段として機能し、貯蓄や保険などの安全ネットを築くことが可能になります。職の安定性や福利厚生も、この欲求に影響を与えます。

社会的欲求と賃金

・賃金そのものが直接この欲求を満たすわけではありませんが、安定した収入があることで、家族や友人、社会活動などの人間関係を築く余裕が生まれます。また、賃金を通じて得られる社会的地位や職場での評価が、間接的にこの欲求を満たす助けとなることがあります。

尊重の欲求と賃金

・高い賃金や昇進、ボーナスなどの金銭的報酬は、他者からの評価や尊敬を受けるためのシンボルとなります。賃金が評価や業績に基づいて増加する場合、それは個人の能力や価値が認められているという証拠となり、自己尊重や社会的評価の欲求を満たすことに繋がります。

自己実現の欲求と賃金

・自己実現の欲求においては、賃金そのものが直接の動機となることは少ないです。しかし、十分な賃金があることで、経済的な心配をせずに、自分の夢や目標に向かって努力する余裕が生まれます。また、自己成長や新たな挑戦に対して投資するための資金を得る手段ともなります。

賃金は、マズローの欲求段階説において、特に生理的欲求や安全の欲求を満たすための重要な要素です。これらの基本的な欲求が満たされることで、従業員は次の段階の欲求に意識を向けやすくなり、結果的にモチベーションが高まる可能性があります。しかし、上位の欲求である尊重の欲求や自己実現の欲求については、賃金だけでは十分でなく、成長の機会や認知、達成感といった要素が重要になってきます。
したがって、賃金が人のモチベーションに与える影響は、従業員の欲求の段階や状況に応じて異なると考えるべきです。