定年後、再雇用した場合の社会保険、雇用保険

60歳で定年退職した社員を再雇用しても、社会保険、労働保険の扱いが特に変わるわけではありません。
社会保険(健康保険、厚生年金保険)、雇用保険とも、被保険者資格はそのまま継続します。

再雇用社員についてやるべきことが発生するのは、その人の賃金額が下がった場合です。
この場合、標準報酬が変わりますが、再雇用者の場合は特例があります。
また、国から給付金が出る可能性があります。
これらについて、順次ご説明していきましょう。

社会保険の同日得喪

賃金(基本給などの固定的賃金)が下がった場合、通常は「月額変更」の手続きを取ります。

これは、3ヵ月間の平均賃金から新たな標準報酬を決定する手続。
標準報酬が変更されるのは、賃金が下がってから4か月目となります。
また、変更されるのは標準報酬等級が2等級以上変動した場合のみです。

そのため、どんなに賃金が下がっても、3ヵ月間は下がる前の高い保険料を払わなくてはなりません。

再雇用者の賃金は、定年前より大幅に下がることが少なくありません。
そのため、保険料が過重になりすぎるということが起こり得ます。

それを回避する特例措置があります。
これが「同日得喪」という手続。
これは、再雇用された月に、社会保険の資格喪失届と資格取得届を同時に提出すれば、その月から標準報酬が変更される(=保険料が変更される)という特例です。

擬似的に、退職→入社という形にするわけですね。

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この特例を受けることができるのは、老齢厚生年金の受給権のある、60歳から64歳の人が、退職し1日も空白がなく再雇用された場合です。
手続の際には、本人の保険証、辞令など退職が確認できる書類、労働契約書など再雇用されたことが確認できる書類を添付します。

高年齢者雇用継続給付

再雇用した社員の賃金が低下した場合、雇用保険から「高年齢者雇用継続給付(高年齢者雇用継続基本給付金)」という給付金が本人に支給されます。

この給付金を活用し、支払人件費を押さえつつ、本人の収入はそれほど減らないように再雇用者の賃金水準を調整している会社も少なくありません。

高年齢者雇用継続給付の支給要件

高年齢者雇用継続基本給付金を受けるためには、次の要件を満たしている必要があります。

  • 被保険者が60歳に到達した日において被保険者期間が5年以上あること
  • ※60歳以後に被保険者期間が5年以上になった場合は、その時点で要件を満たしたことになります。
  • 賃金が、60歳到達時賃金の75%未満であること
  • 賃金が360,584円(この額を支給限度額といいます)未満であること

ここでいう賃金は、時間外手当、通勤手当などを含む、月例賃金すべてです。
通勤手当も入るという点が要注意です。

高年齢者雇用継続給付の支給額

高年齢雇用継続給付金は、60歳から65歳までの各月(支給対象月といいます)ごとに支払われます。

支給額は、支給対象月の賃金額と、60歳到達時賃金額の比率に対応して決まります。
したがって、昇降給、残業などの状況によって支給額が変わります。
具体的には以下の通りです。

  • 支給対象月の賃金額が、60歳到達時賃金額の61%以下のとき:支給対象月の賃金の15%
  • 支給対象月の賃金額が、60歳到達時賃金額の61%超75%未満のとき:以下の算式による
    -183/280×支給対象月の賃金額+137.25/280×60歳到達時賃金額

面倒な算式ですが、要するに支給対象月の賃金額が大きくなるほど、一定割合で逓減するようになっています。
厚生労働省が早見表をホームページにアップしていますので、計算が面倒であれば、それを見るのがいいでしょう。

高年齢者雇用継続給付の支給限度額

支給対象月の賃金額が、60歳到達時賃金額の75%以上のとき、または、支給限度額の360,584円を超えたときは支給されません。
また、支給対象月の賃金額と上記算式により計算した額の合計額が支給限度額の360,584円を超えた場合は、超えた分が減じられます。

なお、この支給限度額は、毎年8月に改定されますので、要注意です。

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高年齢雇用継続給付の支給申請手続

高年齢雇用継続基本給付金の支給申請は本人が行うことになっていますが、本人が同意すれば事業主が行うことができます。(こうすることが多いです)。

受給にあたって最初にやるべきことは、次の2つです。

・60歳時の賃金登録
・受給資格確認、支給申請

60歳時賃金登録

給付金は、60歳時点の賃金に対する支給対象月の賃金の比率(低下率)に対応して支給されます。
そのため、60歳の時の賃金がいくらだったのかを登録しておく必要があります。

手続としては、「雇用保険被保険者60歳到達時等賃金証明書」を後述の支給申請書類と一緒に、事業所を管轄する公共職業安定所に提出します。

この証明書は、退職時に提出する離職証明書と似たようなフォーマットになっており、60歳到達時から遡る1年分の賃金額を記入します。
時間外手当、通勤手当など、支払われた賃金額すべて(賞与等を除く)を記入します。
通勤手当は月割りにします。

証明書記載の期間に対応する賃金台帳、出勤簿を添付します。

受給資格確認、支給申請

「高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書」を、初回の支給対象月の初日から4ヵ月以内に、事業所を管轄する公共職業安定所に提出します。

支給対象月に対応する賃金台帳、出勤簿および本人の生年月日を証明する書類を添付します。
また、支給申請書に振込先金融機関の確認印を受けてもらうか、預金通帳のコピー(表紙とその裏面)を出してもらい、合わせて添付します。

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2回目以降の支給申請

初回の支給申請等の手続が終わると、その場で「高年齢雇用継続給付支給申請書」が交付されます。
2回目以降はその用紙を使って、2ヵ月ごとに支給申請します。

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