ここがポイント!就業規則作成・変更

あるべき姿から現状診断

就業規則の作成・見直しにおいて最初にやるべきことが「現状診断」です。

◆作成時の現状診断

新たに就業規則を作成する際に行う診断は、会社の人事・労務の現状診断です。
会社の労働時間管理、賃金決定基準や支払方法といった、現実に会社で行われている人事・労務管理施策を、就業規則の記載項目に沿った形で洗い出していきます。
 
◆見直し時の現状診断

就業規則見直しの際、目の前にある就業規則を眺め、「ここはまずいな」とか「この項目が抜けている」とチェックを入れていくというのが、割とよく見られるやり方です。
いま存在する就業規則をじっくり読み込み、そこから問題点を探していくということも、必要なことです。

しかし、これだけで十分な見直しはできません。漏れ・抜けが生じます。見直し対象の就業規則現物に、引きずられてしまうのです。

したがって、就業規則見直しにあたっては、「本来こうあるべき」「こうあってほしい」という、「目指す姿」からのチェックが必要なのです。

そのために「就業規則チェックリスト」を用意し、リストを元に就業規則をチェックしていきます。こうすることにより、抜けている項目は見直すべき項目が明らかになるとともに、内容を漏れなくチェックできます。

不利益変更への対応

◆就業規則は「生き物」である

就業規則はいったん定めたあとも常に見直し・変更が繰り返されます。

法改正への対応もありますし、そもそも、会社の人事制度を具体的な文書としたものが就業規則ですから、こうしたものが変われば、当然就業規則も変更されます。さらに、企業業績の悪化に伴う変更もあります。

就業規則の変更が問題になるのは、労働者にとって不利な変更の場合です。

◆就業規則の不利益変更と労働契約

労働契約法第9条には、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない」と、労働条件の不利益変更は合意が原則であることをまず述べています。

そのうえで、次の第10条の場合は、「その限りではない」としています。

「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。(以下、略)」

つまり、次の2つの要件を満たしている場合は、たとえ個々の労働者が同意をしていなくても、就業規則の不利益変更が可能だということです。

①就業規則変更の内容が合理的である
②変更後の就業規則を周知している

この「合理的」の判断基準は以下の通りとなります。

①労働者の受ける不利益の程度
②労働条件の変更の必要性
③変更後の就業規則の内容の相当性
④労働組合等との交渉の状況
⑤その他の就業規則の変更に係る事情

◆労働者の受ける不利益の程度と労働条件の変更の必要性

これは、変更をしないままでいた場合に経営に与える悪影響の度合いと、変更により労働者が被る不利益の度合いとのバランスということです。両者のバランスを考えて、労働者に過剰に不利益とならないようにしなければ、その不利益変更は認められません。

特に、賃金や退職金などの重要な労働条件の不利益変更については、変更しなければ会社の存続にかかわるなど、「差し迫った経営の危機」に基づいたものであることが求められます。

◆変更後の就業規則の内容の相当性

就業規則の変更内容が、その時点の日本社会の一般的な通念・常識から見て妥当かどうか、ということです。変更の代償として行われる措置や、関連する労働条件の改善状況なども判断材料に含まれます。

◆労働組合等との交渉の状況

「労働組合等」には、労働者の過半数が所属する労働組合から、少数労働組合、労働者の過半数代表者、労働者で構成される親睦団体まで、労働者の意思を代表するものが幅広く含まれます。(「労働契約法の施行について」(平成20年1月23日基発第0123004号)。

就業規則の不利益変更を実施するに当たって、労働者側と誠意をもって話し合ったかどうかが問われるということです。

戦略的な人事制度変更と就業規則

就業規則は、人事制度改定に合わせて変更することもあります。この場合、業績悪化などの差し迫った経営危機があるために変更するとは限りません。将来の成長戦略のために、人事制度を改革することもあるからです。

このような戦略的な就業規則変更の場合、結果として労働条件が上がる従業員もいれば、労働条件が下がる従業員もいます。典型例が、賃金体系を年功序列型から成果・貢献度重視型へ変更する場合でしょう。

このような場合、現実の不利益があるとは限りませんし、人事評価などによって労働条件が上がる人もいれば下がる人もいます。

しかし、一部の社員でも労働条件が不利益になる可能性がある場合は、不利益変更にあたるとされています。そのため、人事制度改革などに合わせた就業規則の変更の際にも、前述の就業規則の不利益変更の法理が適用されます。

しかしながら、このような戦略的な就業規則の変更を、経営危機等による就業規則の不利益変更の場合と全く同じ基準で判断するのは、適切ではありません。

人事制度改革に合わせた就業規則変更の場合は、次の5点で合理性を判断するのが適切と思われます。

①制度内容、評価基準が公正・透明であること
②賃金総原資は同じであること
③一定の経過措置が設けられていること
④特定の層に不当な不利益を課すものでないこと
⑤労働組合等と十分な協議を尽くしていること

◆制度内容、評価基準が公正・透明であること

制度が一定のポリシーのもとに設計されており、内容が公開されている必要があります。特に成果・貢献度重視型の人事制度に変更する場合、ここをしっかり押さえなければなりません。

なかでも、人事評価制度の内容や評価基準を公正・透明なものにすることは、賃金や格付といった重要な労働条件に直結するため、最重要ポイントといえます。

◆賃金総原資は同じであること

人事制度の改革を伴う戦略的な就業規則変更では、「原資イコール」が原則です。つまり、社員によって賃金が上がったり下がったりしても、社員全体で見れば、変更前と同じ金額を会社が支払っているということです。

もし、新制度移行によって社員に支払う賃金総額が減るようであれば、差し迫った経営の危機が要件とされる可能性が高くなります。

◆一定の経過措置が設けられていること

新人事制度導入によって労働条件が下がる社員に対し、激変緩和措置など一定の経過措置を設けているか否かも、重要な判断基準となります。

◆特定の層に不当な不利益を課すものでないこと

中高年など特定の層を狙い打ちにしたような制度変更は、無効とされる可能性が高くなります。

◆労働組合等と十分な協議を尽くしていること

労働組合や労働者代表などと誠意をもって協議することは、ここでも重要な要件となります。